多重エルゴード定理
Oseledecによって証明された多重エルゴード定理について解説します。
カオスアトラクター${M}$上の不変測度を$\rho$、次元をとします。また、$f:M{\rightarrow}{M}$をアトラクター上の不変測度を保存する写像とします。$f$はたとえばエノン写像などのカオス写像が考えられます。$J(x)$を${M}$上の点$x$のヤコビ行列とします。ここで、次の行列を定義します。
$$ J_{x}^{n}=J(f^{n-1}x){\cdots}J(fx)J(x)\tag{1} $$
このとき、ほとんどすべての$x$で次の極限が存在します。
ただし*は転置複素共役を表します。
の固有値の対数はリアプノフ指数を呼ばれています。リアプノフ指数は次元の数だけ存在し、通常のように降順に並べられます。
を以下の固有値に対応する固有ベクトルで張られるの部分空間とします。このとき
が成り立ちます。このとき、ほとんどすべてのについて
が成り立ちます。ただしは \ に属するベクトルです。例えばが3次元空間のときはは2次元空間になります。したがって、3次元空間から2次元空間を除いた部分空間にベクトルが属する場合、(4)の右辺はに収束します。しかし、3次元空間に対し2次元空間は測度が0なので、に属するほとんどすべてのに対して(4)の右辺はに収束します。同様にに属するほとんどすべてのベクトルに対して(4)の右辺は最大リアプノフ指数に収束します。