多重エルゴード定理

 Oseledecによって証明された多重エルゴード定理について解説します。
 カオスアトラクター${M}$上の不変測度を$\rho$、次元をmとします。また、$f:M{\rightarrow}{M}$をアトラクター上の不変測度を保存する写像とします。$f$はたとえばエノン写像などのカオス写像が考えられます。$J(x)$を${M}$上の点$x$のヤコビ行列とします。ここで、次の行列を定義します。

$$ J_{x}^{n}=J(f^{n-1}x){\cdots}J(fx)J(x)\tag{1} $$

このとき、ほとんどすべての$x$で次の極限が存在します。

\displaystyle{
\lim_{n \to \infty}(J_{x}^{n*}J_x^n)^\frac{1}{2n}\tag{2}=\Lambda_x
}

ただし*は転置複素共役を表します。
 \Lambda_x固有値の対数はリアプノフ指数を呼ばれています。リアプノフ指数は次元の数だけ存在し、通常\lambda_1\geq\lambda_2\geq{\cdots}のように降順に並べられます。
 E_{x}^{(i)}\exp(\lambda_i)以下の固有値に対応する固有ベクトルで張られる\textbf{R}^mの部分空間とします。このとき

\displaystyle{
\textbf{R}^m{\supset}{E_{x}^{(1)}}{\supset}{E_{x}^{(2)}}{\cdots}\tag{3}
}

が成り立ちます。このとき、ほとんどすべてのxについて

\displaystyle{
\lim_{n \to \infty}\frac{1}{n}\log||T_{x}^{n}u||=\lambda^{(i)}\tag{4}
}

が成り立ちます。ただしuE _ {x} ^ {(i)} \ E _ {x} ^ {(i+1)}に属するベクトルです。例えばE _ {x} ^ {(i)}が3次元空間のときはE _ {x} ^ {(i+1)}は2次元空間になります。したがって、3次元空間E _ {x} ^ {(i)}から2次元空間E _ {x} ^ {(i+1)}を除いた部分空間にベクトルuが属する場合、(4)の右辺は\lambda_iに収束します。しかし、3次元空間に対し2次元空間は測度が0なので、E _ {x} ^ {(i+1)}に属するほとんどすべてのuに対して(4)の右辺は\lambda_iに収束します。同様に\textbf{R}^mに属するほとんどすべてのベクトルuに対して(4)の右辺は最大リアプノフ指数に収束します。